【共生社会レポート⑮】農業×福祉=ともに耕す未来 ~酪農を通じてモ~っとつながる地域交流の輪~

 宮城県地域共生社会推進会議では、宮城県内の困りごとを抱えた高齢者・障害・子ども等の分野を超えた支援や地域住民の支え合い活動及び自治体・社協・福祉関係団体、NPO、企業などの連携事例を調査し、活動内容などについて情報発信を行っています。
 今回は加美町で酪農を通じた農福連携の取組を行っている一般社団法人もりの工房の取組について、代表理事の一條重人さんと一緒に働く小松紀仁さん、鎌田幸さんにお話を伺いました。

インタビュー:一般社団法人もりの工房 代表理事 一條 重人 氏

-この取組を始めた経緯を教えてください。

 牧場を運営している中で、後継者や人手不足が酪農業界全体の課題と感じていました。こうした課題を解決するために多様性を尊重した酪農の在り方を模索するようになり、福祉分野との連携を考えました。障害の有無に関わらず牧場に来てほしいという思いから、2019年に町内の福祉施設の協力を得て、施設外就労の受入れ先となり、障害のある方と共に牧場での作業をスタートさせました。そして、この活動が多様な人が酪農に触れることのきっかけとなり、食育活動の広がりや交流人口の増加、持続可能な酪農にもつながるものと考え、2020年に任意団体としてもりの工房を設立し、2022年に法人格を取得しました。

-どんな取組や地域交流活動をしていますか?

 多様性の在り方に関する理解を深め、障害者が協働・共生できる地域社会を目指し、酪農業全般はもちろん、地域で食育活動や里山保全活動、ワークショップ等を開催しています。障害がありながらも生き生きと働く小松さんが、ファシリテーターをつとめる牧場での食育活動では、障害のある子どもたちを対象に、搾乳体験や紙芝居を用いて牛の体の仕組みを解説する活動を行っています。そのほか、加美町子どもの心のケアハウスや宮城県立古川支援学校の生徒と一緒に、牧場から出る廃材を利活用した小物の制作を行うワークショップ等も開催しています。
 こうした体験やイベントを開催することで、交流人口を増やし、障害についての理解を深める機会の増加にもつなげたいと考えています。

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▲ 小松さんの作業の様子①        ▲ 小松さんの作業の様子②

-農福連携に対する想いを教えてください。

 過疎のまちにおいて、障害に対するネガティブなイメージがクローズアップされがちで、障害者の可能性や能力の部分が見えづらく、障害者が働くことに対する理解が十分ではないと感じています。 私は、障害者の持つ能力を十分に発揮してもらい、加美町の基幹産業である農業を障害者の活躍の場として選んでもらえるよう努めてきました。
 人手不足に悩む農業と障害者雇用の架け橋となるような活動に取り組むことで、障害の有無に関わらず、誰もが多様性を認め合いながら、地域の中で活躍できる人が増えればいいと思います。

-一緒に働く従業員との関わりについて教えてください。

 現在、もりの工房では障害のある二人と一緒に働いています。二人には、自分のペースで無理なく作業してもらい、成功体験を積み重ね、働くことや地域との関わりの中で喜びを感じてほしいです。
 実際に、一緒に働く小松さんから「紙芝居の読み聞かせをやりたい」という思いを聞き、酪農を通じて食や仕事、いのちの学びを支援することを目的に活動してもらうようになりました。今では、学校や障害者施設等での出前授業やイベントの場で、紙芝居を用いて牛や酪農の仕事について、読み聞かせを行っています。

▲鎌田さんの作業の様子①       ▲鎌田さんの作業の様子②

-今後の展望についてお聞かせください。

 これまでに、仙台市をはじめ県内から、障害者の職場見学や体験実習を受け入れてきました。しかし、障害者の多くは、移動手段が乏しく公共の交通機関が少ない加美町への通勤がネックとなり、就労には至っていないのが実情です。そのため、加美町で入居率の低い町営住宅をグループホームとして利活用し、住まいと仕事の両輪で支援を行い、地域の中で協働できる機会を増やしたいと考えています。
 現在、企業との連携により、障害の有無や世代を超えて、誰もが農業体験を通じ交流できる農園を設立し、多世代・多属性の交流を育む農業体験プロジェクト「積水ハウス農園〜みんなの畑〜」を実施しています。日頃の生活に農業を取り入れることで、心身ともにリフレッシュを促し、将来的には農業の生産現場での雇用や就労へとつながる体験などを提供していきます。

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▲ 牧場の様子①                ▲ 牧場の様子②

インタビュー:小松 紀仁 氏

-牧場でのお仕事はいかがですか?

 夏は暑くて大変だけど、楽しいです。大きな機械や電動工具を使って色々な作業ができるので楽しいです。

-紙芝居での読み聞かせはいかがですか?

 最初は緊張していたけど、もう慣れました。役に合わせて声を低くしたり高くしたり変えています。それを聞いて子どもたちが喜んでくれるのが嬉しいです。

インタビュー:鎌田 幸 氏

-牧場でのお仕事はいかがですか?

 自分のペースでゆっくりと仕事に取り組めるので嬉しいです。

 

<取材を終えて>

 今回、加美町で行っている酪農を通じた農福連携の取組について、御紹介しました。障害の有無に関わらず、日本の農業を支える一労働力として、働く人が働きやすい環境を整え、その人が持つ能力を発揮する場を作る取組に感銘を受けました。今後の展望として、障害を持つ方々が直面する移動手段を解決するため、グループホームの設置を検討するとのことでしたので、今後も加美町の農福連携の取組に注目していきたいと思います。
 これからも各地域の取組について、情報を発信していきます。